父
また車が壊れた。
私が乗っているのはスズキのジムニーで型はja11、 H8年式のオンボロ車である。高校卒業後、大学に行かない代わりに父と母に買ってもらった。父と色違いのお揃いである。
車体の状態はかなり良かったが、中身は限界だったようで去年の12月にエンジンを載せ替えた。信号待ちをしていると回転数が勝手に落ち込み最終的に動かなくなるとかいうクソムーブを繰り返したため、泣く泣く貯金を叩き車屋のおっさんを脅し値切りに値切って修理を頼んだ。ちょうどその時期にスマホを落として買い換えたので貯金はスッカラカンになった。
そして今年の3月あたりに今度はミッションがダメになった。ギアが全然入らない。あまりに入らないので運転中にも関わらずシフトレバーを両手で引っ付かみギアチェンジをしていた。どうやらジムニーの持病らしい。泣く泣く直した。
で1週間前にエンジンがかかったりかからなくなったりした。もう慣れっこだったので父に話し、行きつけの車屋に修理を頼みに行った。
この行きつけの車屋というのはエンジンを載せ替えさせた車屋ではない。父の友人が経営している所が行きつけであった。
実家から1時間くらいの場所にある。私は父が嫌いなので往復2時間はかなり地獄である。普段はかなり口の悪い爺という感じなのだが、怒ると運動会の応援よりでかい声を出すし、ヤクザより怖いのでそういう所は本当に嫌いだ。私は父のせいで父以外の男の恫喝にビビったことがあんまりない。
けどあんまり邪険にすると車が壊れた時に頼れなくなるので普通に話すし、怒られてもお風呂か布団の中で泣くようにしている。(泣くと更に怒られる)
車を預け、出来上がるまで1時間くらいかかるというので2人で飯を食いに行った。福岡は至る所にラーメン屋がある。父はビールが飲みたいと言うのでチェーン店の東龍軒に入った。(ビールを置いてない個人経営店もそこそこあるため)
私は辛いラーメンの3辛、父はビールと唐揚げを頼んだ。唐揚げは2つくれた。東南アジア系の目が大きな感じのいい男性アルバイトが、父のおもんなジョークに愛想笑いをしてくれて申し訳ない気持ちになったが、どうやったらこんなに薄く切れるのかというチャーシューには腹が立った。父はビールをもう一本追加し、東龍軒ラーメンを頼み替え玉までして腹をパンパンにしていた。人間欲を張るといい事などひとつも無いのである。
会計は父が持ってくれた。2人で食事をする時は絶対に奢ってくれる。私は父の少ない小遣いが酒代とタバコ代でほぼ消えるのを知っているので、いつも少し悲しい気持ちになる。けどそれはそれである。
車屋に戻ると修理は完了していた。車庫の奥にピンクのジェットスキーがあったので少し見せてもらい、父の友人と話したあと私の運転で家に帰った。
帰り道は仕事の話や父が学生だった頃の話、私が産まれた時の話などした。産まれた時の話と言っても、私が小さい頃どこでうんこを漏らしたかの話である。
駐車場から家までの道すがら、いつも父は私と出かけて食事をするのが楽しいと話す。その度に、仕方ないなという気持ちと、いつかてめぇはぶん殴ってやるという気持ちがせめぎ合うのであった。