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就職して1年半経った。入社したての頃は57kgだった体重が1年で62kgになっていたので、健康診断の担当医からしこたま怒られた。身長はこの期に及んで1cm伸びていたのでプラマイゼロだと思うが、他人に体重のことを指摘されるのは思ったよりショックで泣きながら3kg落とした。

 

 

もともと自分の進路に危機感が無く、どうせ実家暮らしだし給料にもこだわりが無かった。拘ったところで持っている資格は色彩検定3級のみでこれは就職に全く役に立つものでは無かったし、また高卒の身分でいい企業に就けるとも思わなかった。高卒の就職活動は基本的に9月から解禁で、9月までにまたは9月から後にやってくる求人の中から自分で選んで見学に行ったり面接をしたりする。クラスメイトが専門学校や短大の進路をどんどん決めていく中で、ものすごい焦りに襲われた私はとち狂って基本給10万円のコールセンターに見学に行くことにした。基本給が10万円ということは手取りは良くて7、悪くて6弱だろう。20歳になった次の年からは住民税も引かれるので昇給無しだと多分月5万円くらいしか残らない。が、そんなことは知る由もないので背が高くて綺麗なお姉さんに連れられ社内を見て回る。一人一人デスクがあって、向かいあわせで部屋いっぱいに人が働いていた。社内の雰囲気は悪くはなさそうだった。休憩室からは街並みが広く見渡せて開放的な気分になった。しかし私はやはり就職活動自体が他人事だったので仕事内容の説明等は赤べこのようにぶんぶん頭を振って聞いたが、帰ってから内容が1ミリも頭に入っていない事に気がついた。けれど帰り際に「絶対にここに面接を受けに来ます!」と大声で宣言してしまったので受けるしかないかなとぼんやり思うに留まっていた。

 

正直やりたい仕事なんてひとつも無かった。何度かハローワークからババアがカウンセリングに来てくれるがその時も何がしたいかと聞かれて大変答えに困ったので、漁師になりたい、魚に触りたいというと、それはお家でも触れるよね?と言われて諦めた。だからやっぱりあのコールセンターに入社するしか無いなと思った。しかしこの一連の流れを見ていた当時の担任が痺れを切らして、ハローワークから直に求人票を輸入してきてくれた。会社名だけ見ても何をしている会社なのかさっぱり分からなかったので、給料が1番高くて土日が休みのところを選んで見学に行った。今度は綺麗なお姉さんではなく、茶色くて口紅がとんでもない色のババアに案内されて、暗くて狭い社内を案内された。コールセンターで働いている人よりもこの会社で働いている人は全体的に愛想がなくて空気もどんよりしていた。銀髪で肌が真っ白で体の細い男性か女性か分からない人が軽く会釈をしてくれたがすごく怖かった。コールセンターではグラスにはいった麦茶を出してもらったが、ここではペットボトルのおーいお茶を出してもらった。

家に帰ってコールセンターとこのよく分からない会社、どちらを受けようか迷った。コールセンターで嫌だったのは給料が少ないという部分ではなく、入社して1年は同期とレクリエーションをしたり旅行に行って講習を受けたり、そういうのがめちゃくちゃあるらしいという部分だった。コミュ障で口が上手くない自分には到底無理である。多分入社2ヶ月とかで鬱になって辞めるか自殺するんだろうなと思った。そんな訳で言ってしまえば消去法で(ふたつしか選択肢は無かったが)なにをしているかよく分からない会社を受けることにした。

11月頃に面接を受けに行った。9月から約2ヶ月が空く訳だが、その間に皆どんどん進路が決まっていく。じりじりとした焦りとストレスでだんだん苦しくなっていた。落ちたらどうしようとかではなく、まわりに取り残されている感じとか、4月からどんな形になれど自分は働くのかという漠然とした不安で鬱っぽくなっていた。

一次面接を合格して終わりかと思ったら二次面接まであったのでめんどくせぇ会社だなとしみじみ思った。二次面接では話すことがなかったので、中学生の時に漫画を描いて雑誌に投稿したが、今見ると目も当てられない出来なのでガムテープでぐるぐる巻きにして部屋に隠していること等を話した。社長や偉そうなジジイやババアが沢山いて、私対ジジババ9人くらいの面接だったのでとても緊張して口の中がからからになった。高校3年間の欠席日数が3ヶ月くらいだったので受からなくても仕方ないかなと思っていたけど、2月にあっさり内定通知が出た。社長が学校まで来て内定通知を賞状みたいに手渡してくれた。

それから卒業式を迎えて、友達と写真を撮ったり先生にお礼を言ったりはせずにすぐに家に帰った。母にイオンでクレープを買ってもらう約束をしていたけど、気分が悪くて食べずじまいだったのを覚えている。入社日までに何度か会社に行ったが、制服のボタンやネクタイを全て後輩にあげてしまっていたので、ブレザーに変なボタンをぬい直して着て行ったりした。

3月は丸々休みだったので、多分他の友達はバイトや課題をしていたんだろうけど、自分は課題もないし4月から働くのにバイトもしたくなかったので家でバナナマンのコントやラジオをひたすら見ていた。土曜日の朝になると、録画していたバナナムーンGOLDを聞きながら絵を描いたりした。Twitterでへんな外国人に絡まれてCDジャケットを描いたり、本免試験でめちゃくちゃな運転をしたりして時間を潰した。

 

 

4月が来て入社すると、あの茶色くて口紅がとんでもない色のババアは自分の課長だったし、銀髪の美人は超ベテランで自分が1番尊敬する先輩になった。

5年くらい社会人を経た後に見返したら面白いかと思って書いたので、5年後またこれを読みに来ようと思う。