ケントくん
俺は恋愛をしたことが無い。中学の頃には既に体重が60キロを越しており、髪はボサボサニキビは大量、その上オタク。本を読みながら朝早くに登校したし、教室ではひたすら絵を描いていた。どの要素を取っても男の子が寄ってくるような女の子ではなかった。けれどその時はそんなことは本当にどうでも良くて、絵を描いたり本を読んだりすることだけがとにかく楽しかった。
中3の時に同じ美術部の男の子と付き合っていた時期がある。キスくらいはしたと思う。別れてからもずっと好きで、高3の頃まで大好きだった。だけど彼はなかなか振り返ってくれなかった。占い師に「あなたと彼は魂が男だから、仲良くなれてもお友達止まりよ」と言われ、マジ!?!無理じゃん!!と秒で嫌いになった。その後すぐに高校の同じクラスのすしらーめんりくに似た男の子を好きになった。夏祭りにも行って告白もしたけれど、口オナホになって終わりだった。
さて晴れて社会人になった俺はセックスの虜になった。最初はあんまり気持ちよくなかったし、変なおじさんにネトストされたりした。でも若いというだけでチヤホヤされるので普通に楽しかった。段々こんな事がしたい、あんな事をされてみたいという欲も出てきた。社会人はあんまりにも暇なのでこれが暇つぶしになったし、楽しかった。
けれどやっぱり彼氏が欲しかった。そりゃあ俺をネトストしたおじさんに告白すれば間違いなく100%完璧に付き合えただろうが、そういうやつではなく。手を繋いで遊びに行けるような大好きな彼氏が欲しくなった。
ヨシと思い立って6月の頭頃にペアーズを始めた。始めた瞬間俺の理想の顔の男の子とマッチした。俺の脳内彼氏そっくりそのままだった。毎日LINEをしたし、お互い猫好きで、飼っている猫の写真を送りあったりした。一緒にモンハンをしながら通話をしたり、お話したりした。声がすごく素敵で、配信でもやっていそうな声だった。彼と夜、通話をするのが毎日毎日楽しみで仕方なかった。
7月の頭に初めてデートに行った。顔も体型も好みだった。ひとつ上で歳も近くて話は尽きなかった。お昼ご飯を一緒に食べて猫カフェに行ったり、服を買ったり猫のおやつを探したり、いつもは飯を食って即ホテルかもう飯さえ食わずにホテルに直行したりしていた俺にとって正しく青天の霹靂であった。男と正・コミニュケーションって取れるんだと思った。 帰る時間が近づくと手を繋いで歩いたし、バイバイのハグもした。書いてて反吐がでる、助けてくれ。
2回目のデートは短く軽食だけ食べて終わったけれど、やっぱり手を繋いだし、短い時間でも俺のために体を開けてくれる彼が好きだった。嬉しかった。俺はバイバイしたあとその足でセフレの家に向かい2泊した。自分でも気が狂っているのかなと思った。いや、1回目のデートも前もセフレの家から直接向かった気がする。要するに俺は大好きな彼とセックスがしたかったんだけど、すぐにセックスをしてしまうといつもと同じなのでぐっとぐっと我慢していたというわけである。手を繋いでいる時も自然とホテルの方に足が向いたし、ハグされたあとバスの中で1人脳内オナニーに夢中になった。マンコはびしょびしょだった。俺はセックスに脳を焼かれた哀れな豚であると再認識した。
それからしばらく彼は仕事が忙しくて会える日がなかった。毎日LINEはしていたけれど、ある日既読も付かずにパッタリ返信が来なくなった。
あんまりダメージがなかった。そもそも付き合っていなかったし、俺が彼に抱いていた感情が性欲なのか恋心なのかよく分からなかったし、忙しいなら仕方ないかと特別追いLINEをして返事を催促することもなかった。元気に仕事してるかな、体壊してないかなと心配になった。LINEなんて返してくれなくていいから、仕事で無理して倒れてないといいけどと本当に思っていた。
デカい嘘である。いや思ってはいるし心配は本当にした。けど俺だったらいくら忙しくても未読スルーはしないし、だから俺は彼にとって未読のまま放って置ける程度の女というわけである。
ケントくんへ
初めて通話した日を覚えていますか?君はお父さんが他界してしまってとても苦労をしているという話を俺に聞かせてくれましたね。俺は君の苦労に寄り添って涙を流しました。仲良くなってからはハクちゃんの写真を沢山送ってくれましたね。1度でいいからハクちゃんのピンクのお腹で深呼吸してみたかった。俺も彼と仲良くなりたかったよ。体壊してませんか?君の仕事は大変そうだから、最近は少し涼しくなったけど俺は心配です。体に気をつけてご飯ちゃんと食べてください。頼むから頭が病気の女に望まぬ妊娠をさせて渋で結婚して今までの倍苦労して生きてください。一生穴の空いたシャツ着てろゴミ野郎俺は今になってお前とセックスしなかったことを誇りに思う。
俺より